連載1
あなたはこの漢字を読めますか?
ザ・ライトスタッフオフィス「漢字研究会」

はじめに

 私たちが使っている日本語を考えるとき、忘れてはならないのが漢字の存在です。漢字は、もともと中国で生み出されたものとされていますが、その最大の特徴は、一つひとつの漢字がそれぞれに "読み" を持つ表音文字であると同時に、"意味" を持つ表意文字でもあるということです。
 たとえば、「かいほう」と読むことばでも、漢字で書くと、「開放」「解放」「介抱」「快方」「回報」「会報」「解法」などとさまざまです。あるいは、「こうえん」ということばを駆使すれば、「公園で公演があり、それが好演だったと後援者が講演で話す」などという文章も成立します。
 このように、表音文字であると同時に表意文字であることが、「日本語はほかの言語と比べて難しい」と言われる原因にもなっているようですが、だからこそ表現の幅が広がり、細やかで豊かな意思伝達が可能となっていることも忘れてはならないでしょう。
そもそも日本では、ことばには言霊(ことだま)という不思議な力が宿っているとされ、信仰の対象となっていました。柿本人麻呂は、万葉集に次のような句を読んでいます。

敷島(しきしま)の大和(やまと)の国は
言霊(ことだま)の幸はふ(さきわう)国ぞ
真幸(まさき)くありこそ

 「日本は、ことばに潜んだ霊が真の幸福を与えてくれる国だ」というわけです。
 事実、日本語はしばしば感性を表象するのに、とくに適した言語と言われます。漢字が存在することで、日本語は味わい深い言語となり、人と人の心を結びつけ、すばらしい文化を築いてきたのです。
 それにもかかわらず、昭和四〇年代には、ビジネス界を中心にして、「国際競争力強化のため、漢字を廃止して日本語もローマ字かカナを使うべきだ」などという議論が巻き起こったこともありました。さすがにその後、そんな無謀極まる意見は影を潜めたようだが、それにしても、昨今の日本人の漢字の読み書き能力の低下は目を覆うばかりです。
 二〇〇五年一月に財団法人「総合初等教育研究所」が発表した小学生の読み書き能力の全国調査の結果を見ても、それは明らかでした。目立った誤答例を挙げておきましょう。

【読みの誤り】
・かおが赤(あか)らむ→(ふく)らむ
・食が細(ほそ)る→(こま)る
・五月八(よう)日→(はつ)日
・後(こう)かい→(ご)かい
・天神(じん)様の祭り→ 天(かみ)様
・赤(せき)十字の旗→(あか)十字
・便(たよ)りがとどく→(べん)り
・尊(たっと)ばれる→(えら)ばれる


【書きの誤り】
・きょうはここの(九)日→(心)日
・農か(家)の多い地方→ 農(科)
・人につか(仕)える→(使)える
・すずしいこ(木)かげ→(小)かげ
・お(折)りをみて話す→(織)をみて
・ものごとのもと(本)を正す→(元)を正す
・一し(糸)乱れぬ行進→ 一(志)
・いいようにはか(計)らう→(墓)らう

 
こうした現象は、何も小学生に限ったことではありません。大学生や社会人になっても、平易な漢字すら読めない人が急増しているようです。その元凶は、読書量の減少や、ワープロやパソコンが普及したため、辞書を引く習慣の減少したことにあるとも言われていますが、見逃すことのできない事態です。
 また、漢字が読めなくなると同時に、日本人が長い歳月をかけて築いてきた文化や風習が姿を消しつつあると感じるのは錯覚でしょうか。
かつて、勤勉・節約・節操・清貧などということばは、日常的に使われていました。多くの人々が、そのことばから日本人としての美徳を学び、家族や地域で協力し、相互に扶助し合って生き抜く社会を目指していたのです。しかし、今や、そんなことばも日常生活の中から姿を消し、忘れ去られようとしています。それとともに、物質主義が横行するようになり、人々がお金第一となり、誤った個人主義であふれかえってしまったようにも感じられます。
 ことばの衰退が、民族の文化・歴史の崩壊を招きつつのかもしれない、というのは少々言い過ぎかもしれませんが、少なくとも、日本人の心を伝えることばが消えていくことはなんとも悲しいことではないでしょうか。
そこで、このコーナーでは、漢字の正しい読みや意味を学ぶことを目指したいと思います。それは、社会をよりよいものにし、豊かな人生を送るためにも必要なことと言えるのではないでしょうか。