連載3
あなたはこの漢字を読めますか?
ザ・ライトスタッフオフィス「漢字研究会」

◆他にもまだある読めない漢字(1)


版図を広げる  意味は何となくわかるが、読み方がよくわからない……かも。「はんず」なんて読んでいませんか? 「版」は戸籍のことで、「図」は領土の地図のこと。両方を合わせて、領土という意味になる。ほかに「唐の最大版図は……」などという文が、歴史の教科書に出ていたはずだ。〈はんと

恭しくお辞儀する  「恭順」は「きょうじゅん」と読むが、それでは「恭」の訓読みは? 常用漢字でも、こういう漢字がいくつかある。たとえば「侮辱」の「侮」が訓読みでは「あなど・る」というのも意外と難しいようだ。〈うやうや・しく

競売物件を購入する  法律用語と一般用語とで意味は同じでも、読み方が異なる語がいくつかあるが、これはその代表。一般用語では「きょうばい」と読むが、法律ではひねくれていてそうは読まない。〈けいばい

一入、感慨深い  「一入」は元来、布などを染め汁に一度入れて浸すことを意味する語だった。布を染め汁に浸けると布に色がつき引き立つので、そこからひときわ、いっそうという意味も出てきた。〈ひとしお

参差として折り重なる  「参差」は通常あまり用いられない文章語だが、たとえば夏目漱石の『草枕』には「参差として幾尋(いくひろ)の干網が……」とある。これは長短や高低の差がある様子という意味だが、ほかにも互いに入り交じる様子という意味がこの語にはある。「参差として折り重なる」の場合には、こちらの意味の方。〈しんし

に染まる  思わず、「しゅ」と読んでしまうが、×。「朱に交われば赤くなる」「朱を入れる」などでは、たしかに「しゅ」と読むが、「朱に染まる」という慣用句ではそうは読まない。〈あけ

白地図に記号を書き入れる  地理や地図が好きな人にとっては常識的な語。ところがそうでない人は、生涯であまりお目にかからない語かも。大陸・島・国などの輪郭だけを示していて、細部の記号・文字などを書き入れられる地図のこと。〈はくちず

鳥渡休む  なぜか、時代小説や歴史小説でよくお目にかかる漢字。「鳥渡」は音からの当て字。「ちょう・と」……「ちょと」……そう、あれです。ほかに、「一寸」とも書く。こちらは、「寸」が「時」を省略した形で、「一時」という意味からの当て字。〈ちょっと

太神楽を見る  伊勢神宮に奉納する神楽を「太太神楽」というが、こちらは獅子舞や皿回しなどの雑芸をいう。獅子舞などの芸も、このごろめっきり減ってしまったようで。〈だいかぐら

知己を得る  「知己」は司馬遷の『史記』(刺客伝)の「士は己を知る者の為に死す」からきた語。自分をよく知る、親友、という意味だ。しかし日本では、知り合いの人という軽い意味で普通は使われる。思わず「ちこ」と読んでしまいそうだが……。〈ちき

相好を崩す  「相好」は顔かたち、顔つきのこと。「相好を崩す」ではにこにこするという意味になる。孫を前にした、おじいちゃん・おばあちゃんの表情が、まさに「相好を崩す」だ。〈そうごう

枝折戸を開ける  木の枝や竹などでつくった、庭の出入り口などに使う戸のこと。本に挟むものには「栞」という漢字も使われる。〈しおりど

悪阻に苦しむ  妊娠の初期から中期にかけて、吐き気がして食欲不振に陥ったり食べ物の好き嫌いが激しくなること。医学用語では「おそ」と読むが、一般的には古語で芽ぐむ・兆しが現れるという意味の「つはる」に由来して読む。〈つわり

幽明境を異にする  「幽明」とはあの世とこの世という意味。「境を異にする」は相隔てるという意味。同音語に「幽冥」があるが、こちらはあの世、冥土、という意味。〈ゆうめい、さかい

防錆加工を施す  音読み・訓読みの一方は簡単だが、もう一方はよくわからないという漢字がある。「錆」もそんな漢字のひとつだ。訓読みでは「さび」と読むが、それでは音読みではどう読んだらいいのだろうか? 〈ぼうせいかこう

白血病が寛解する  病気そのものは完治していないが、症状が一時的または永続的に軽減したり消失したりすることを、医学用語で「寛解」と表現する。素直に読んで、正解。〈かんかい

作麼生  「作麼生!」「説破(せっぱ)!」アニメ「一休さん」の中で、一休さんと新右衛門さんがこの言葉をしばしば交わしていたのを覚えている人も多いはず。そもそも「作麼生」は禅でよく使われる言葉で、いかが、いかに、さあどうだという意味。宋の時代に禅の修行で中国に渡った僧侶が、当時宋で俗語的に使われていたこの語を持ち帰ったといわれている。一休さんといえば、禅宗のお坊さん。つまり新右衛門さんと禅問答を交わしつつ、「さあ、どうだ!(作麼生)」「説き破るぞ!(説破)」とやり合っていた訳だ。〈そもさん

生兵法は大怪我の元  「生兵法」の正しい読み方を身につけている人はあまりいないのではないだろうか。つい「なまへいほう」とやってしまうが、これは×。「生兵法は大怪我の元」は慣用句で、少しばかりの知恵や腕前に頼ると大失敗をするという意味。〈なまびょうほう

市政を私する 常用漢字表(1981年10月1日内閣告示第1号)を見ると、「私」の音・訓読みは「シ・わたくし」しか認められていない。「わたし」という一般的な言い方は、常用漢字表では認められていないのだ。こうした不都合は「私」の場合だけでなく、「十」もそうだ。「十」で認められている読み方は、「ジュウ・ジッ・とお・と」の4通りのみ。「ジュッ」という口語的な読み方は認められていない。だから、「十戒」は辞書では「じゅっかい」ではなく「じっかい」の項に出ることになる。〈わたくし・する

名代の銘菓  「みょうだい」と読むと、代理という意味になり、たとえば「父の名代として告別式に参列する」というように使われる。ここでは名高いこと、有名、という意味なので「みょうだい」と読んでは×。〈なだい

心寂しい夕暮れ  「心」をこのように読む語は、ほかに「心悲しい」「心恋しい」「心なし」「心恥ずかしい」などがある。何となく寂しいという意味の語。ちなみに、「恨む」「羨む」も、この「心」と同じ意味から派生している。〈うらさび・しい

四国の札所を経巡る  「経巡る」は、あちこちを巡り歩く、という意味。「経る」の複合動詞である。〈へめぐる

母より寧ろ父に似ている  「寧・ネイ」という漢字は安らか、安んずる、という意味のほかに、「与其A寧B」という用法があって、これは「そのAならんよりは、寧ろBなれ」と訓読する。この「寧」の用法がこれ。〈むし・ろ

冷たい時雨が降る  「時雨」は秋の末から冬の初めにかけて、降ったりやんだりする雨のこと。「蝉時雨」などとも使う。常用漢字表付表で認められている熟字訓の読み方。また俳句では、冬の季語で「小夜時雨上野を虚子の来つゝあらん」という正岡子規の俳句もある。〈しぐれ

善管注意義務に違反する  これは民法に規定されている熟語の略語。正式にいうと「善良な管理者の注意」義務になる。これは、その人の職業や社会的地位などから考えて普通に要求される注意を払う義務が、その人にはあるということ。〈ぜんかんちゅういぎむ

気温の較差  一般的には「こうさ」と読んでいたが、気象用語でこうなった。最高と最低、最大と最小との差という意味で使う。〈かくさ

時世時節  漢字2字以上の熟語で、訓読みと音読みを組み合せた読み方をすることを「湯桶読み」というが、これもその典型。その時その時に移り変わる時節という意味。ちなみに「湯桶読み」の湯桶(ゆとう)とは、そば湯を入れるのに使う注ぎ口と柄のある木製の器のこと。湯は「ゆ」と訓読みに、桶は「とう」と音読みにしている。〈ときよじせつ

賭け事にはまって過怠破産に陥る  債務者が浪費・賭博その他の射幸的行為によって財産を大きく失ったり、また過大な債務を負担して破産したりすることを「過怠破産」という。この「過怠破産」では破産宣告が確定すると同時に、犯罪になる。くれぐれも、ご用心、ご用心。〈かたいはさん

白粉を塗る  この「白粉」も常用漢字表付表で認められている熟字訓の読み方。「お」が丁寧語として意識されなくなった結果、熟字訓と見なされたのだろう。〈おしろい

心が明澄に澄む  常用漢字なのに「澄」の音読みも、少し難しい。あまり熟語として用いられないからだろうか。そういう漢字は、社会人でも辞書に当たって調べたいものです。〈めいちょう

地方の素封家  「素封」は司馬遷の『史記』に出てくる語で、爵位・領地はないが富は諸侯に等しいという意味。「素封家」は財産家、名望家のこと。〈そほうか

菩薩が起こした四弘誓願  菩薩が発するとされる4つの誓願。衆生無辺誓願度、煩悩無尽誓願度、法門無量誓願学(あるいは誓願知)、仏道無上誓願成の総称。仏教用語は、通常の読み方と違うものが多いので注意したい。〈しぐぜいがん

河馬が昼寝をしている  「海馬・うみうま」はタツノオトシゴの別称。それでは、「河馬」はどう読むのか?〈かば

棒球を思い切り打つ  ベースボールを「野球」、サッカーを「蹴球」と訳すのだから、「棒球」はどんな球技なのか、と考えるかもしれない。そういえば、中国語で「棒球・バンキュ」は野球の意味だ。しかし、日本では重箱読みでこう読む。〈ぼうだま

食べた物を吐逆する  一度飲み下した食べ物が胃から不随意的に口に逆行する現象を「吐逆」といい、吐き気や胃のけいれんなどによる「嘔吐」と区別する。しかし、見慣れない語なので、一瞬どう読んでいいか戸惑うかも。〈とぎゃく

時計の竜頭を回す  時計の「竜頭」とは針などを動かすためのつまみのこと。元は釣り鐘を針に吊すために、釣り鐘の頭部に付けた竜の頭の形をしたものをいった。〈りゅうず

役所で続柄を尋ねられる  役所の書類でしょっちゅう見る語が、これ。親族としての関係という意味は誰でも知っているが、読み方は「ぞくがら」? 「ぞくへい」? 「つづきがら」?〈つづきがら

お門違いの質問をする  めざす家・人を間違えることから転じて、見当違いという意味になった。「門」の訓読みの語は、「角」の訓読みの語と混同しやすいので注意したい。〈お・かどちが・い

面舵を切る  船でへさきを右に向ける舵の取り方を「面舵」という。左へ向ける舵の取り方は、「取り舵」だ。〈おもかじ

生一本の清酒  「生」は日本語では最も多様な読み方がある漢字。これと同じ読み方をする語に、「生そば」「生地」「生真面目」などがある。〈きいっぽん

口腔外科を受診する  口から咽頭に至る部分を「口腔」という。一般的には「こうこう」と読むが、医学用語ではちょっと違って……。〈こうくうげか

六方を踏む  歌舞伎で俳優が花道から舞台に出てくるときなどに手を振り高く足踏みして歩く、誇張した演技の仕方を、「六方」という。〈ろっぽう

ことばを荒らげる  「荒」は常用漢字表では「コウ」という音読みのほかに、訓読みでは「あ・れる、あ・らす、あら・い」の3つが認められている。ここから、いろんな混乱が生まれている。「荒立てる」「荒れ地」と送り仮名が異なるのだ。「荒らげる」では「あらげる」のか「あららげる」のか、ちょっと判断しかねる。〈あら・らげる

十重二十重の人だかり  幾重にも多く重なる様子のこと。現在ではずいぶんと「古風」と感じさせる表現になってしまった。〈とえはたえ

新盆を迎える  死後初めてやってくる盆のこと。「しんぼん」「あらぼん」という言い方もあるが、一般的にはやはり……。〈にいぼん

黄泉の客  「黄泉の国」のように、「黄泉」はふつう「よみ」と読むが、この言葉のように漢語的に読むこともある。『平家物語』でも「黄泉中有(ちゅうう)の旅の空に……」というくだりがある。〈こうせん

緑青が吹く  銅や銅合金の表面にできる緑色のさびのこと。〈ろくしょう

蚕豆を注文する  蚕を飼う夏に食べ、その形も蚕に似ていることから、こう当てられた。また、さやが空に向かってつくことから、こう呼ばれるという。「野良豆」と呼ばれることもある。〈そらまめ

この砂の立坪  尺貫法による立方体の体積の単位。六尺立方=一立坪。〈りゅうつぼ

夕食の団居  まるく並んで座ること、団らんという意味。『古今集』に「思ふどち団居せる夜は唐錦たたまく惜しき物にぞありける」という歌がある。〈まどい

学舎を巣立つ  音読みすれば「がくしゃ」となるが、ここはひとつ和語として訓読みしてみてください。〈まなびや

鳩尾を殴られる  「水落ち」が母音変化して、こう呼ばれるようになった。中国でそこを「鳩尾・キュウビ」と呼んでいたことから、こう熟字訓するようになった。〈みぞおち

先生の話を味解する  「味解」はよく味わい理解するという意味。反対の意味の語に、「耳食(じしょく)」がある。これは耳で聞いただけで実際に味わわない理解の仕方をいう。どちらの語もやさしい漢字なのだが、聞き慣れない語なのでどう読めばいいか、少し戸惑う。〈みかい

無何有の郷  『荘子』逍遙遊に出ている、荘子が考えた理想郷のこと。自然のままで、何の人為もない楽土ということから。〈むかう・の・さと

着物の身八つ口  和服の身頃(袖・襟・おくみを除いた、前と後ろを覆う部分)の脇明けのこと、袖付けの下で脇縫いの上の部分のことを、「身八つ口」という。和服を着る習慣がなくなってから、着物の部分の名称は私たちからどんどん遠ざかっているようだ。〈みやつくち

天の邪鬼  仁王や四天王が、足の下に踏みつけている小さな鬼のこと。わざと人のやり方や考えに逆らうひねくれ者だという。〈あま・の・じゃく

人の好意を無下にする  「無下にする」で捨てて顧みない、無駄にするという意味。「無下」は下がないという意味から、日本で生まれた用法。〈むげ

無為にして化す  これは『老子』にあることばで、「我、無為にして民自ずから化す」というもの。「無為」は「作為」の反対語で、何もしないで過ごすという意味。〈むい〉〈か・す

他人様の世話を受ける  「他人様」は他人の敬称。といって、「たにんさま」と読んでは元も子もない。敬称にも何にもならないからだ。このごろは「人様」とも書くようになった。〈ひとさま

啓く  「啓蒙」を訓読すると、こうなる。「蒙」は、くらい、道理にくらい、愚かだという意味の漢字。〈もう〉〈ひら・く

銘々皿に取り分ける  「銘々」とは各自、ひとりひとりという意味。だから「銘々皿」は食べ物を各自に取り分ける皿ということになる。〈めいめいざら

物怪の幸い  あやしいもの、怪物・妖怪などを漢語で「物怪・ぶっかい」というが、これが日本に入って意味も思いがけない、意外、に変化するとともに、読み方もこう変化した。〈もっけ

没義道な仕打ち  人の道に外れること、むごいこと、不人情なこと、という意味。仏教用語っぽいが、仏教用語ではなく、日本で生み出された語。〈もぎどう