連載8
あなたはこの漢字を読めますか?
ザ・ライトスタッフオフィス「漢字研究会」

■漢字の仕組み

 中国で初めてまとめられた字典は、後漢の時代に出された『説文解字』(許慎・著)だといわれている。その中でさまざまな漢字を、「六書(りくしょ)」といって六種類に分類している。この「六書」の分類法から、まず漢字の仕組みを探っていこう。
 それは、次のようなものだが、誰もが一度は見たことがあるだろう。
 
(1) 象形文字 物の形を抽象化して文字にしたもの。「日」「月」など。=形象文字。
(2) 指事文字 事柄や数などの抽象的概念を、象徴的な約束や印で表したもの。
      「上」「下」「一」「二」など。
(3) 会意文字 象形文字や指事文字を組み合わせたもの。
      「武」(「戈」+「止」)、「信」(「人」+「言」)など。
(4) 形声文字 偏・旁の一方を発音の記号(音符)、他方を意味範疇の記号で表すもの。
      「江」(「さんずい〔「水」の略体〕」+音符「工」)、「河」(「さん
      ずい」+音符「可」)
(5) 転注文字 ある漢字の本来の意味を、他の近似した意味に転用したもの。この場合に
       は普通字音を変える。もともと命令を意味する「令」という語が、やがて
       命令を出す人「長官」の意味に転じて、「長(おさ)」という語と同義に
       なったようなケース。つまり、「県長」=「県令」という関係が生じたと
       いうことだ。
(6) 仮借文字 ある語に当てるべき漢字がない場合に、本来の意味が違う同音の他の漢字
       を借りて当てるもの。食物などを盛る器の「豆(とう)」を「まめ」の意
       味で用いるケース。
 
 以降、この「六書」という分類法は連綿と受け継がれ、今日でも用いられているのだから、相当優れた分類法だったのだ。しかし「六書」の中でも、「(5) 転注文字」は長い歴史のうちに漢字の用法が転化を遂げたことを示すもので、漢字の造字法とは異なる。また、「(6) 仮借文字」は造字できずに、出来合いのもので間に合わせたわけだから、これも漢字の用法の転化に当たる。となると、漢字の造字にかかわる基本ルールは、(1)〜(4)に限定される。そのそれぞれの造字法の仕組みを、もう少し詳しく調べてみよう。

(1) 象形文字
 象形文字には、「人間の象形」「動物・植物の象形」「道具の象形」や「自然の象形」という象形化のタイプがある。

人間の象形
「人間の象形」でいうと、たとえば「人」は人の立った姿、「女」はなよなよした女性が座ったさま、「」は女性の胸におっぱいがあるさまを象形化した漢字だ、とされる。
 ちなみに、「母」と似た漢字に「」があるが、これは「ブ・ない、なかれ」と読む字で、「女」+「一」からなっていて、女を犯してはならないと、それの禁止を「一」で表しているそうだ。「母」のおっぱいを表すふたつの点とは大違いだ。
」はそれがつくられた所以を知ると、かなり強烈な印象を受ける。この字は人間が体を硬直化させて仰臥した姿の象形化なのだという。しかも「屍(しかばね)」の原字で(古代中国でも「しかばね」は仰臥させことがわかる)、また広く肉体や尻を示す字(尻・尿・尾・屎などの意付)に使われる。つまり、死んだ体や肉体の部分に関する漢字をつくっていく字母になっている。
」は人間の手の全形で、「」は指先でものをつかもうとするさまを象形化している。「爪」のファミリーの漢字には、「抓」「爭(争)」などという字がある。「抓(ソウ)」は〈つまむ・つかむ・つねる〉という意味、「爭」は〈つかんで取り合う〉が原義だそうだ。また、「」は手でものを囲うように抱き込む姿、だから「又」のファミリーに属する「収」「取」には〈ものを手中に取り込む〉という意味がある。
」は人間の足の形を描いたもので、後につくられた「趾」の原字。その足の形で、足がじっとひとところに止まることを示した。しかし、「止」は「正」〈まっすぐ進む〉や「歩」の部品でも使われ、〈アシで前進する〉ことも表している。「」という漢字は「止」の上に膝小僧を示す◯印を加えたものだ。これなんか、古代中国人が造字する発想の仕方を感じさせるのに十分な字だ。
」は、本来鼻を象形化したもので、人と話すときに鼻を指さして自分のことかどうかを確認したことから、〈自分〉という意味を持つようになった(転注文字でもあるということだね)。そこでハナの方は「自」+音符「卑」の形声文字「鼻」が使われるようになったといわれる。
 また、「」と「」は実物ずばりの象形だ。対して、「」はぼうぼうと毛の伸びた頭全体を象形化したものだという。〈くび〉とするのは日本に入ってからの意味のようで、中国では〈頭全体〉の意味が一般的らしい。「首領」「首位」「首席」などの熟語が、その辺の事情を窺わせる。ところで、人間の頭を大きく描き、その下に小さく両足を揃えた形を描いた象形文字に、「」がある。日本ではほとんど「ページ」の漢字としてしか使われていないようだが、これは部品として「顔」「頭」「額」などに使われて、〈あたま〉を表している。

動物・植物の象形
」は軽快に走る犬の姿の象形化だ。「」は、イノシシまたはブタの姿を描いたものとされる。今日ではブタは「豚」と表記され、イノシシは「猪」「豬」と表記される。「犬」が象形文字であるのに対して、「」が「犬」+音符「苗」(なよなよして細い)の会意兼形声文字(ミャオという鳴き声からの擬声語ともいわれる)だということは、中国では猫より犬の方が早く飼われたということのようだ。
」と「」は、見るからに象形文字然としている。かなりわかりやすい象形文字だ。「象」は最も目立つ大きい形をしているところから、〈形、姿〉という意味にもなったが、その辺の事情は「像」を考えるとわかりやすい。「像」は「人」+「象」でできた会意兼形声文字だ。この漢字では、動物の象を離れて広く〈姿、形〉を意味するようになった。
 トリは二様に象形化された。一方の「」は尾が長く垂れたトリの姿、他方の「(スイ)」は尾が短いトリを描いたものだ。「鳥」は「鴨」「鴫」「鳩」などに用いられ、「隹」は「雀」「隼」「雉」などに含まれている。「鳥」によく似た漢字の「」も象形文字だ。「鳥」との違いは横棒が一本足りないだけだ。かつてカラスは全身が黒いので目が見分けられないので、横棒を一本省いたという説もある。カラスといえば、「鴉」という漢字表記もあることを知っていたほうがいい。
」の旁部分「它」は、頭の太い毒ヘビを描いたもので、虫偏が付いたのは後の時代だ。古代の中国や日本では、動物は獣と虫とに二分類されていたようだ。だから獣ではない動物は、このヘビのように虫の仲間にされていた。ヘビならまだわかるが、未開の異民族を意味する「蛮」という文字からは、中国人の中華思想の恐ろしさを感じさせられる。中国人は、"中国人以外の人々は虫の仲間だ" とでも捉えていたのかもしれない。
 それはさておき、古代中国では毒ヘビが多く、人に安否を尋ねる慣用句「無它乎」が生まれたという。それで、「無它乎」が「別状ないか」の意に転じ、ヘビには虫偏が付いた「蛇」が当てられるようになったという説が有力だ。
 次は植物。「(か)」は穂が垂れた禾本科(現在はイネ科という)の植物の姿で、「稲」「穂」「稔」などの漢字では偏になっている。「私」も「禾」の仲間だ。会意兼形声文字とされ、「(シ)」は自分だけのものを腕で囲え込むさまを表している。つまり、「私」は取り入れた稲を自分の所有にすることだった。
 話は逸れるが、「私」に対して「」は会意文字で、「八」+「厶」からなる。「八」+「厶」説の解釈はこうだ。「八」は分かれる、背くの意。「厶」は私。私に背くという意から、「公」はおおやけの意を表す。「八」+「口」説では入り口を開いて公開すること、個別に細分して隠さずおおっぴらに筒抜けに見せる意を含む、とある。どっちの説が説得的だろうか。
」は立木の形の象形文字。だから、縦の棒ははねてはいけない。「木」は土に接すると、跳ね返らずにそのまま地下に潜って地下で根を巡らせるからだ。これに対して、「」の縦の棒ははねないといけない。「水」を土に垂らすと滴がはねるからだ。
 草冠の原形「」は双葉の芽生えたさまで、後に今日の草冠に変形していくが、この草冠が「草」の原字なのだ。草冠の漢字「荻」と「萩」はよく似ている。「」は草冠に「狄」で、「狄」には〈低く刈り倒す、低く伏せる〉という意味がある。一方、「」は草冠に「秋」で、文字通り〈秋の草〉という意味だ。

道具の象形
 象形文字の最後は、「道具の象形」。「」は刃の部分が反ったカタナの象形であるという。一方の「」は刀のハがある部分を「ヽ」で示した指事文字だ。
」は、鳶口形の刃に、縦に柄をつけた古代のほこを描いたもの。鉤形にえぐれたところで、敵を引っかける。この武器で敵を征伐することを示すために、「人」+「戈」で「伐」という字がつくられた。「」もまた象形文字で、槍のような形の武器を描いたものだ。
 次に「」は台の付いた食器の象形文字で、その上にご馳走を盛って食べる。「」は三本脚のカナエを描いたもの。三本脚の土器は古代中国独特のもので、肉やスープを入れる常用の食器だった。それが青銅製のカナエになり、礼式用や装飾に使われだした。「鼎」の「テイ」の音は「定」や「停」と同系で、〈しっかりと安定する〉という意味をもっている。そこから、「テイ」と呼ばれるようになったとされている。
「鼎」が三本脚であるのに対して、「(キ)」は四本脚の台を側面から描いたもの。ツクエは四本脚の台だから、木偏をつけて「机」になった。「机」は形声文字に分類される。また、形声文字「肌」では「几」は音符の役割しか果たしていない。
(ショウ・ソウ)」は、長い板を敷いた寝台を縦に描いた字だ。後に木偏を加えて、「牀」が〈寝台〉という意味を表すようになった。この「爿」は〈細長い〉という意味も持つので、石や土の細長い塀のことを「牆」という。会意兼形声文字の「将」は「肉」+「寸」(手の意)+音符「爿」でできていて、「爿」の〈長い〉という意味から、中指を「将指」といい、転じて長となって率いるという意味を生じさせて軍の長を「将軍」というようになった。「将軍」が誕生するには、長い漢字の歴史を必要としたのである。
」は、見たとおりに両扉のあるモンの姿の象形化だ。この「門」に材木の材(切断した木)の原字「才」(切り止める)を加えたのが会意文字の「閉」で、門をとじて通行を切断したことを示した。なお、「」の原字は川をせき止めるせきを描いた象形文字だとされる。その形は変容させているものの、「災」などの上部に含まれているという。そこから、「才」は〈切って止める〉の意を含み、「裁」〈切る〉や「宰」〈切る〉と同系統の漢字だとされる。しかし、「材」〈切った材木〉の意味に用いられることが多くなり、〈材料・素材〉という意味から、〈人間の素質・持ち前〉を意味するようになった。

自然の象形
「自然の象形」の代表といえば、「」「」「」「」だろう。「」も象形文字である。土を盛った姿を描いたものだ。古代中国人は、土に万物を生み出す力があると考えて、これを祭った。また、「土」の字は「社」の原字で、やがて土地の神、氏神を意味するようにもなった。